小池緋扇について

緋扇の思い出

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09 緋扇の芝居小屋

華やかな開幕のベルが鳴りました。思い思いのドラマの始まりです。優しい光と風、そして、"夢"と"希望"と"幸せ"を会場いっぱいに満たしてサァサァー緋扇の芝居小屋の始まりです。

けたたましいベルは、皆様を心地よい粋世界へと誘います。重い緞帳(どんちょう)が開き、待ちわびたファンの前に、誇らしげな役者の勢ぞろいです。
まずは皆様にお目見えのご挨拶です。中央には粋でいなせな「鉄火肌の女性」、江戸の華といわれる「火消」、町を代表する「町奴」、何とも妖艶で艶やかな「大年増」、「世話女房」のほのかな色気、下町気質も色濃い「職人」や「町人」、ちょいといなせな「旦那衆」、見栄を切る「伊達(だて)男」、頑固な「年寄り」、気の弱そうな「若旦那」、品のよい「内儀」、楽しげな「母と子」、そわそわして落ち着かない「子どもたち」

役者の成功は緋扇(私です)の肩に重くのしかかっています。悪人、好人物、あの恋この恋と、まずはぴったりの役を探して、プロデューサー兼、監督兼、時には黒子に徹して役者を支え続けていかなくてはなりません。ほんの小さな手の動き、足さばき、目の表情、顔の動き、腰のひねりなど、ひとつでも不自然であれば、その役は大きく変わってしまいます。お互いに阿吽(あうん)の呼吸が生まれた時、初めて役者たちは心を許しほほ笑んでくれるのです。
中には、声をかけてもそっぽを向く生意気な若者もいますが、時たま素晴らしい役が上手にできると、まるでうれしそうに私にウインクしたり、ガッツポーズで語りかけてくる調子者もおります。
こうして、さまざまな役者と二人三脚を演じることもありますが、役者、すなわち人形との不思議な運命が不思議な関係をつくりだしているのです。

もうひとつ、緋扇の芝居小屋で大変大事な仕事に小道具づくりがあります。小さな小物ひとつが役者を引き立てたり、役者の心の想いを表すこともできたり、中には、職業を表す道具や子どもに持たせる玩具など、その折々でどうしても必要な物もいろいろ工夫してつくることもあります。

 

この芝居小屋から私の手で日本一の役者を育て、多くの代表作が生まれ行くことを願っております。皆様の視線の先に、江戸の町並みが、それぞれ趣向を凝らした江戸の人々が浮かぶような、そんな人間模様をつくり続けていきたいものです。 私は今、こうして多くの作品に生かされていることに心から感謝しているのです。緋扇の芝居小屋の役者は、皆々、私の大切な人形たちなのですから。

町火消作品「町火消」

居酒屋作品「居酒屋」