人形への想い

ご寄稿

人形への想い

私は幼いころから人形が大好きでした。
両手で人形を抱きしめ、頬ずりしたときから
私たちだけのおしゃべりが始まるのです。

人形には「心」があり
悲しいときは憂い、嬉しいときは微笑み
不思議な魅力のベールで、私の心を包み込んでくれるのです。
人間でない人形には、私たちには計り知れない魔力が潜んでいるのでしょうか。
夢と希望を伝える、愛のメッセンジャーなのかもしれません。

私が初めて日本人形の「藤娘」を作った小学生のころ以来
人形一筋の人生を過ごしてまいりました。
魅力的で好奇心旺盛なヒロインたちは、作者に劣らず精一杯に心のドラマを演じ
人びとの心を捉え、未知の世界へと誘います。

人形は一人では生きられません。
心を通わせることも、夢見ることも、恋することもできないのです。
切ない人形たちにせめて、楽しみ、喜び、幸福を与えてあげたい。

人形は私にとって命そのものです。
一輪足りとも残さず、美しい花を咲かせてあげたいのです。

「薔薇の木に 薔薇の花咲く不思議 無けれど」

大切な大切な緋扇の人形たちに、あらゆる表情を与えるため
私の全てを吹き込み、努力してまいりました。

人形は美しくなければならない。
美しいからこそ見る人の心を慰め、夢や幸福を運んでくれるのだと信じ
人形作家として活躍してまいりました。

いつの折も人形に
慰められ、励まされ、夢をもらい、命を燃やし
愛おしい人形たちをいつまでも抱きしめていきたい
これからも、きっと、きっと
人形とともに......

小池緋扇